<TPP>乗り遅れ焦る日本 交渉前の大幅譲歩も
メキシコのペニャニエト大統領が8日、安倍晋三首相との首脳会談で、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)拡大交渉への日本の参加を支持した。ただ、交渉を主導する米国との事前協議はまだ合意に至っていない。政府は7月中の交渉参加を目指して事前交渉を加速させる考えだが、足元を見られれば、交渉に入る前から通商条件で大幅な譲歩を迫られる可能性もある。【宇田川恵、大久保陽一】
「なんとしても7月中には交渉に加わりたいのだが……」。日本政府のTPP交渉担当者は、あせりの色をかくさない。
TPP拡大交渉の参加国は今後、5月と9月に会合を開き、貿易や国内経済規制のあり方などTPPのルールを巡る詰めの議論を行う。10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の場で大筋合意し、年内に妥結したい考えだ。早く交渉に参加しないとルール作りの場で日本の意見を主張できず、他国が決めた条件をのまされる心配がある。
◇受け入れ支持 カギ握る米国
ただ、日本が交渉に加わるには、既に交渉入りしている11カ国すべての承認を得る必要がある。今回のメキシコに加え、マレーシア、チリなどは既に日本の交渉参加を支持しているが、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国は態度を保留している。
中でもカギを握るのは、拡大交渉を主導する米国の動向だ。米国では、新たな交渉参加国を認める場合、議会が90日間議論しなければいけない「90日ルール」があり、既に「5月の会合には間に合わない。しかし、TPP交渉では、新たに参加国が加わった場合、その国の意見を聞くため、臨時の会合を開くことにしている。このため日本政府は、5月会合と9月会合の中間にあたる7月に臨時の会合を開き、日本の意見を主張するというシナリオを描く。
もっとも、7月の臨時会合が実現するかは綱渡りの情勢だ。7月中に会合を設けるには、4月中に米政府との事前協議を決着させ、米議会に通告する必要があるが、「今週中に米政府と合意するのは困難」(政府関係者)との見方が強い。注目されるのは、4月20~21日にインドネシアで開かれるAPEC貿易相会合だ。同会合にあわせ、TPP交渉参加国が日本の参加の是非を議論する見通しで、政府はこの場での支持取り付けに向け、米国などとの調整を急ぐ。
◇懸案は日本郵政 生保参入、意見に隔たり
米国との事前協議では、大きな懸案だった自動車分野は日本が譲歩する形で決着した。しかし、政府が全額出資する日本郵政グループの新規事業進出を巡る隔たりは大きい。
米国は、かんぽ生命保険の事業拡大を懸念している。米国系生保の強みであるがん保険などにかんぽ生命が参入すれば、全国に張り巡らせた郵便局ネットワークを生かして勢力を伸ばす可能性があるからだ。米国は「政府出資が残る日本郵政グループには“暗黙の政府保証”がある。資金調達などで民間が不利になり、公正な競争が阻害される」などと指摘する。
日本郵政は米国に配慮し、がん保険には参入しない方針だ。一方で、収益拡大に向けて学資保険の新商品を4月に投入する計画だったが、保険金支払い漏れの余波で金融庁の認可が下りず、延期を余儀なくされた。政府は、「がん保険凍結と学資保険の延期で米国の理解を得たい」と期待するが、米国は「政府出資が残る間の新規事業進出は認めない」との原則論を主張し、日本に揺さぶりをかけているようだ。
自動車分野では、米国が輸入車にかけている関税(乗用車に2・5%、トラックに25%)を当面据え置くとともに、日本が輸入車の安全審査を簡易に済ませる適用範囲を拡大する方向で合意。北米市場での日本車のシェア拡大を恐れる米自動車業界に配慮して譲歩した形だ。
かわりに日本は、コメなど農産物分野で関税維持を求めるもくろみもあるとされるが、自由化の水準が低いと、TPP参加のメリットもそがれかねない。
2013-04-09 06:49
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